高額療養費の年間上限|8月〜翌7月で数える新しいしくみ
この記事では、2026年8月診療分から始まった高額療養費の「年間上限」が、どんなしくみで、誰の負担を軽くするのかを解説します。
結論から言うと、高額療養費には「月の上限」に加えて、8月〜翌年7月の12か月で数える「年の上限」ができました。年収約370万〜約770万円の方(70歳未満)なら年間上限は53万円で、毎月の上限に少し届かない治療が続く方でも、1年の自己負担の合計がこの額を超えた分は保険者から戻ります。一方で月ごとの上限額は引き上げられているため、「全員の負担が軽くなる」わけではない点に注意が必要です。
- 「年間上限」が月の上限・多数回該当とどう違うのか
- 70歳未満の所得区分ごとの月の上限・年間上限(2026年8月〜2027年7月)
- 70歳以上の外来特例(外来だけの上限)の変更点
- 年間上限の「1年」が8月〜翌年7月である理由と、気をつけたい3つの点
高額療養費は「月」と「年」の二重の上限になった
高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った医療費が上限額を超えた場合に、その超えた分を支給する制度です(厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より)。院外処方の薬局で払う薬代も、保険診療の自己負担として計算に入ります。
これまでの上限は「1か月ごと」だけでした。治療が長引く方のために、直近12か月で3回以上上限に達すると4回目から上限が下がる多数回該当(くわしくは多数回該当のしくみの記事)がありましたが、厚生労働省の資料では、毎月の自己負担が上限に少し届かない方は多数回該当にならず、大きな経済的負担につながることが課題として挙げられています。
そこで2026年8月から、年単位の上限=年間上限が新設されました。厚生労働省は、月単位の限度額に到達しない方であっても、年間上限に達した場合には、その年にそれ以上の負担は不要になると説明しています(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」より)。
| しくみ | 数える単位 | 助かる人 |
|---|---|---|
| 月の上限 | 1か月(1日〜末日) | 入院・手術などで1か月の医療費が大きくなった人 |
| 多数回該当 | 直近12か月の該当回数 | 月の上限に何度も達する人(4回目から上限が下がる) |
| 年間上限(新設) | 8月〜翌年7月の12か月の合計 | 月の上限に届かない程度の高い負担が、1年を通して続く人 |
年間上限のイメージを図にすると、次のようになります。
70歳未満の上限額(2026年8月〜2027年7月診療分)
厚生労働省の資料に示されている、70歳未満の上限額は次のとおりです。月の上限は引き上げられ、多数回該当の額は据え置き、そこに年間上限が加わりました(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」より)。
| 年収の目安 (健保の標準報酬月額) |
月の上限 (見直し前→2026年8月〜) |
多数回該当 | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,160万円〜 (83万円以上) |
252,600円+1% → 270,300円+(医療費-901,000円)×1% |
140,100円 | 168万円 |
| 約770万〜約1,160万円 (53万〜79万円) |
167,400円+1% → 179,100円+(医療費-597,000円)×1% |
93,000円 | 111万円 |
| 約370万〜約770万円 (28万〜50万円) |
80,100円+1% → 85,800円+(医療費-286,000円)×1% |
44,400円 | 53万円 |
| 〜約370万円 (26万円以下) |
57,600円 → 61,500円 | 44,400円 | 53万円(※) |
| 住民税非課税 | 35,400円 → 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
※年収約200万円まで(健保の標準報酬月額15万円以下など)の区分に該当することが確認できた方は、年間上限41万円が適用され、令和9年(2027年)8月以降に償還払いされます(厚生労働省資料・協会けんぽの案内より)。
厚生労働省の試算例では、年収約370万〜約510万円の方で、多数回該当にならない程度の自己負担が1年続いたケースで、年間の自己負担が76.7万円から53.0万円になり、約23.7万円の負担減になると示されています(同資料より)。逆に、1年のうち数か月だけ医療費がかかる方は、年間上限には届かず、月の上限の引き上げ分だけ負担が増えることもあります。
70歳以上は「外来特例」も見直し
70歳以上には、外来(通院)だけの個人ごとの上限=外来特例があります。通院と薬局の薬代が中心の方に関わる部分です。厚生労働省の資料では、次のように変わっています。
| 区分(70歳以上) | 外来特例の月の上限 | 外来の年間上限 |
|---|---|---|
| 一般(年収約370万円まで) | 18,000円 → 22,000円 | 14.4万円 → 21.6万円 |
| 住民税非課税 | 8,000円 → 11,000円 | (新設)9.6万円 |
| 住民税非課税(所得が一定以下) | 8,000円(据え置き) | ― |
住民税非課税の方は月の上限が上がる一方、新たに外来の年間上限9.6万円(=見直し前の8,000円×12か月)が設けられました。厚生労働省は、毎月上限額まで利用している方の年間の負担は増えないように設定したと説明しています(同資料より)。
年間上限で気をつけたい3つの点
- 「1年」は8月〜翌年7月
暦年(1〜12月)でも年度(4〜3月)でもありません(協会けんぽ「令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」より)。最初の対象期間は2026年8月〜2027年7月診療分です。確定申告の医療費控除(1〜12月)とは数える期間が違うので、領収書は日付が分かる形で保管しておきましょう。 - 窓口で止まるのではなく、あとから戻る
年間上限を超えた分は「保険者から還付を受けることができる」しくみです(厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」より)。月の上限のように限度額適用認定証やマイナ保険証で窓口の支払いが止まるものではありません。申請の要否や時期は加入先によって案内が異なるため、保険者からのお知らせを確認してください。 - 2027年8月から所得区分がさらに細かくなる予定
厚生労働省の資料では、2027年8月診療分から所得区分が細分化され、月の上限額が変わる予定です。年間上限の額そのものは、資料上は各区分で同じ水準が示されています。
なお、高額療養費の申請には期限があります。月ごとの払い戻しを申請し忘れている方は、申請期限と2年さかのぼりの記事もあわせてご覧ください。
- 自分の所得区分がわからない → 保険証の発行元(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村の国保窓口など)に確認
- 8月以降、毎月数万円の自己負担が続いている → 年間上限の対象になりそうか、還付の手続きを保険者に確認
- 薬代の負担が重く、治療を続けにくいと感じる → 自己判断で薬を減らしたりやめたりせず、処方医やかかりつけ薬局に相談(ジェネリックへの変更や長期処方などで調整できる場合があります)
- 2026年8月診療分から、月の上限に加えて8月〜翌年7月で数える「年間上限」ができた
- 70歳未満の年間上限は、所得に応じて168万円・111万円・53万円・29万円など
- 月の上限は引き上げ、多数回該当は据え置き。長く治療が続く人ほど年間上限の恩恵を受けやすい
- 70歳以上の外来特例は、一般で月22,000円・年21.6万円に。住民税非課税には外来の年間上限9.6万円を新設
- 年間上限は窓口で止まらず、あとから保険者に還付してもらうしくみ。領収書を保管し、加入先の案内を確認
参考資料
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」(2026年10月閲覧)
- 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」(PDF)(2026年10月閲覧)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)「【制度改正】令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」(2026年10月閲覧)