労災の薬代は窓口負担なし|保険証を出してしまったときの直し方
仕事中や通勤途中のけがで病院と薬局にかかったとき、いつもの癖で保険証(マイナ保険証)を出してしまう方は少なくありません。
結論から言うと、仕事中・通勤途中のけがや仕事が原因の病気には健康保険は使えず、労災保険で治療・薬を受けます。労災保険の指定医療機関・指定薬局なら窓口負担なしで受けられます。うっかり保険証を出した場合も、病院・薬局で「労災に切り替えられるか」を確認すれば、多くは手続きで取り戻せます。放っておくと、あとで健康保険が負担した分の返還を求められることがあります。
- 仕事中のけがで、健康保険と労災保険を「選べない」理由
- 労災指定薬局なら薬代の窓口負担がない、というしくみ
- 保険証を出してしまったときの2つの直し方(切り替えできる/できない)
- 院外処方の薬局の分を忘れないための確認ポイント
よくあるケース:手首を痛め、保険証で受診してしまった
Bさん(40代・パート勤務)は、勤務先の倉庫で重い箱を下ろしたときに手首を痛めました。「たいしたことはない」と思い、帰りに整形外科へ寄って、いつもどおりマイナ保険証で受付。院外処方の薬局で湿布と痛み止めを受け取り、どちらも3割負担で支払いました。
翌週、上司に話したところ「それは労災だから、保険証は使っちゃだめだよ」と言われ、Bさんは「もう払ってしまったのに、どうすればいいの?」と困ってしまいました。
何が起きていた?健康保険と労災保険は「選べない」
Bさんのつまずきは、仕事中のけがに健康保険を使ってしまったことです。協会けんぽ埼玉支部の案内では、仕事中や出張中、通勤途中のけが、仕事が原因の病気は労災保険から給付されるため、健康保険は使えないとされています。さらに、本人や会社が労災保険と健康保険のどちらを使うか選ぶことはできず、必ず労災保険の手続きをすることになっています(協会けんぽ埼玉支部「仕事中や通勤途中にケガや病気をしたときは健康保険を使用できません」より)。
「パートだから労災は関係ない」と思われがちですが、同じ案内では、アルバイトやパートタイマーなどの雇用形態は関係ないと明記されています。
では、労災保険を使うと薬代はどうなるのでしょうか。労災の治療費の給付は、業務中のけがなら「療養補償給付」、通勤中なら「療養給付」と呼ばれます。受ける場所によって、次のように扱いが変わります(福井労働局「療養(補償)等給付」より)。
| 受ける場所 | 窓口での支払い | 使う請求書 |
|---|---|---|
| 労災病院・労災保険の指定医療機関・指定薬局 | 無料で治療や薬を受けられる(療養の給付) | 業務災害:様式第5号 通勤災害:様式第16号の3 |
| 指定以外の医療機関・薬局 | いったん自分で払い、あとから請求するとかかった費用が支給される(療養の費用の支給) | 業務災害:様式第7号 通勤災害:様式第16号の5 (医療機関用・薬局用など受診先ごとに様式が分かれる) |
つまり、最初から労災として指定薬局に処方箋を出していれば、Bさんは湿布と痛み止めの代金を窓口で払う必要がありませんでした。給付は、けがが治る(症状固定)まで受けられます(同上)。
保険証を出してしまったときの直し方は2通り
厚生労働省のリーフレットでは、健康保険で治療を受けてしまった場合、まず受診した病院に、健康保険から労災保険への切り替えができるかを確認するよう案内しています。答えによって、その後の流れが分かれます(厚生労働省「業務中や通勤途中のケガに、健康保険は使えません!!」より)。
① 切り替えできる場合は、労災保険の様式第5号(通勤災害は様式第16号の3)を受診先に出せば、窓口で払った金額(一部負担金)が返還されます。会社に労災であることを伝え、書類の準備を相談するのが第一歩です。
② 切り替えできない場合は、一時的に医療費の全額を自分で負担したうえで、労災保険に請求します。流れは次のとおりです(厚生労働省のリーフレットより)。
- 加入している健康保険(協会けんぽなど)に、労働災害であることを申し出る
- 健康保険から医療費の返還通知書などが届くので、返還額を払う
- 労災保険の様式第7号(通勤災害は第16号の5)に、返還額の領収書と窓口で払った分の領収書を添えて、労働基準監督署に請求する
リーフレットでは、病院から健康保険に明細書(レセプト:医療機関や薬局が保険者に送る請求の明細)が届くまで2〜3カ月程度かかるため、返還の通知までに時間がかかることがあるとしています。また、すでに労災認定を受けていて全額の立て替えが難しい場合は、立て替えずに請求する方法もあるため、労働基準監督署に申し出るよう案内されています。
なお、協会けんぽ埼玉支部の案内では、労災に当たるのに健康保険を使った場合、協会けんぽが負担した7割相当分の返還請求を行うとしています。「黙っていれば3割負担で済む」わけではない点に注意が必要です。
見落としやすいのは「院外処方の薬局」の分
Bさんのように病院と院外処方の薬局の両方で払っている場合、病院の分だけ切り替えて、薬局の分を忘れてしまうことがあります。病院と薬局はそれぞれ別に請求をしているため、薬局にも「労災に切り替えられるか」を確認しましょう。療養の費用を請求する様式も、医療機関用と薬局用などで分かれています(福井労働局「療養(補償)等給付」より)。
確認するときは、次のものを手元にそろえておくと話が早く進みます。
- 病院・薬局それぞれの領収書(明細書)
- けがをした日と、仕事中か通勤途中かがわかるメモ
- 勤務先の労災担当者の連絡先
いったん全額を立て替えてあとで取り戻す、という流れは、退職後の保険切り替え中に保険証がないまま受診したときと少し似ています。そちらは健康保険の切り替え期間中の薬代のケースで解説しています。
Bさんへのアドバイス
- まず勤務先に、仕事中のけがで受診したことと、保険証を使ってしまったことを伝える
- 整形外科と薬局の両方に電話し、労災への切り替えができるか、必要な書類は何かを聞く
- 切り替えできれば様式第5号を提出して、3割分の返還を受ける。できなければ健康保険への申し出から始める
- 次回からの受診・薬の受け取りは、最初から「労災です」と伝える。通い続ける薬局が労災の指定薬局かどうかも確認しておく
一方で、仕事と関係のない病気やけがで仕事を休む場合は、健康保険の傷病手当金の対象になることがあります。違いは傷病手当金のよくある疑問の記事もあわせてご覧ください。
- 仕事中・通勤途中のけがかどうか自分で判断できない → 勤務先の担当者か、労働基準監督署に相談
- 勤務先が労災の手続きに協力してくれない → 最寄りの労働基準監督署、または労災保険相談ダイヤル(0570-006031)に相談
- 病院・薬局で切り替えできないと言われた → 加入している健康保険に連絡し、返還の手続きを確認
- けがの痛みや腫れが続く、しびれが出てきた → 自己判断で湿布や痛み止めを使い続けず、受診している医療機関に相談
- 仕事中・通勤途中のけがや仕事が原因の病気には、健康保険は使えない(本人も会社も選べない)。パート・アルバイトも同じ
- 労災保険の指定医療機関・指定薬局なら、治療や薬を無料で受けられる
- 保険証を出してしまったら、受診先に労災への切り替えができるか確認。できれば様式第5号(通勤は第16号の3)の提出で自己負担分が戻る
- 切り替えできなければ、健康保険に返還してから様式第7号(通勤は第16号の5)で労働基準監督署に請求する
- 院外処方の薬局の分も、病院とは別に確認する
参考資料
- 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「業務中や通勤途中のケガに、健康保険は使えません!!」(PDF)(2026年10月閲覧)
- 福井労働局「療養(補償)等給付」(2026年10月閲覧)
- 協会けんぽ埼玉支部「仕事中や通勤途中にケガや病気をしたときは健康保険を使用できません」(2026年10月閲覧)